AI時代に蘇る明治の遺産:広告マッチが新マーケティングツールになる理由
- 寺川真嗣

- 7月14日
- 読了時間: 6分

今日は、最近のインターネットマーケティングで注目される「エンティティ(実体)」の概念から始まる、興味深いテーマをお届けします。情報空間では、実体は直接触れられないため、記述された情報の集積からその確からしさを推測するしかない、という指摘が基盤です。2025年のSEOトレンドでは、エンティティベースのSEOがキーワード中心からシフトし、ブランドの文脈理解が検索ランキングを左右すると言われています。
従来のインターネットは、検索結果を大量に並べて信頼性を担保していましたが、AIの登場で状況が一変。AIは重複情報を排除し、質の高いデータを統合して「真実相当性」を提供するようになりました。
これにより、人々はAIの出力に高い期待を抱くようになり、情報提供側も戦略を変えざるを得なくなりました。
特に、小規模店舗—カフェや雑貨店、衣料品店などの小売業—の視点でこの変化は顕著です。以前は、SNSやウェブに大量の情報を発信して「目に止まる」努力が不可欠でした。
例えば、原宿のカフェのように、口コミや写真を山積みして人気をアピールするアプローチです。 しかし、AI時代では、発見のハードルが下がり、質の高い独自情報(ユニークなメニューやエコ志向のストーリー)がAIの推薦アルゴリズムで自然に浮上します。
これにより、店舗側は大量発信から脱却し、ローカルに根差した戦略へシフト。
インターネット以前の時代のように、地元住民の口コミやコミュニティ形成が再評価されて来ます。近隣へのクーポンチラシ配布、地元タウン紙広告、店舗イベント企画で「場」を同心円状に広げ、事実ベースの信頼を築くアプローチです。そして、これがカフェだけでなく、全小売業に適用可能で、AIツールと融合すればさらに効果的になります。
そこで、この文脈で、廃れたと思われていたノベルティ(販促品)の復活が注目されます。
ステッカー、ボールペン、そして特に広告マッチのようなシンプルなアイテムが、AI時代に新しいマーケティング手法として機能する可能性が高いのです。
ノベルティは直接的な売り込みではなく、顧客の日常に溶け込み、何かの機会で「思い出される」ことを狙ったツール。顧客個人を媒体とし、SNSで共有されればその効果は増幅します。
2025年のトレンド調査では、ノベルティの使用率が上昇中。ノベルティーは、低コストで長期間の露出を提供し、Z世代のサステナブル志向にも合致します。
例えば、ステッカーはノートPCに貼られ、SNS投稿で拡散。Redditの事例のように、小予算のキャンペーンがブランド価値を爆上げしたケースもあります。
ここで深掘りしたいのが、広告マッチの事です。広告マッチは明治時代から続く古い広告手法ですが、面白い事に、AIによって思いがけず、その効果が復活するのです。
まずはその歴史を振り返ってみましょう。マッチ自体は1827年、イギリスのJ.ウォーカーが発明した「摩擦マッチ」が起源で、当初は黄リンが使われ、手軽に火を起こせる画期的なツールでした。 日本に伝わったのは明治時代。1875年(明治8年)に清水誠が東京でマッチ製造を開始し、明治・大正時代にはスウェーデン、アメリカと並ぶ世界3大生産国となりました。 輸出が活発で、海外向けの美しいマッチラベル(輸出ラベル)がデザインされ、木版画風の妖怪や伝統柄が施されたものも登場。明治期の輸出マッチは、経済成長の象徴でした。
広告マッチとしての登場エピソードは、1894年(明治27年)が嚆矢(最初)とされています。株式仲買の玉塚商店が、東京上野公園で福島安正中佐のシベリア帰国歓迎大祝賀会で広告マッチを配布したのが始まりです。 これにより、マッチは単なる火起こし道具から、宣伝媒体へ進化。明治28年(1895年)の第4回内国勧業博覧会では、播磨幸七のマッチが出品され、有功1等賞を獲得。ドイツ製機械の影響を受け、生産効率が向上しました。 また、煙草宣伝マッチの嚆矢は、村井兄弟商会が陸軍大演習で配布したもの。明治末期には、広告マッチ取扱店が全国に広がり、無標マッチにラベルを貼る内職が流行しました。
大正・昭和初期には、都市消費文化の花開きとともに、マッチラベルが広告の花形に。デパートやフルーツパーラー(例: 千疋屋)が活用し、限られたスペースにキャッチコピーやデザインを凝らしました。 蒐集家も登場し、根岸武香翁が「燐票蒐集家」の元祖として知られ、1902年(明治35年)に逝去するまでマッチラベルを集めました。 面白いエピソードとして、1900年(明治33年)に大西廣松が日東社を創業し、広告マッチを本格化。戦前は日本の輸出ラベルが海外で人気を博し、日本美術の輸出窓口となりました。 昭和30年代には、米国発祥のブックマッチ(二つ折り)が普及。飲食店やホテルが電話番号を印刷し、無料配布で宣伝。ピーク時には、広告マッチが小売業の定番ツールでした。
しかし、禁煙運動やライターの普及、デジタル広告の台頭で、マッチは廃れてゆきました。2022年には、日東社が日本最後のブックマッチ生産を終了。
それが、AI時代に復活するとは! AIは情報空間を量から質の重視に変え、マーケティングはローカル戦略を強化をする必要に迫られました。
そこで、広告マッチのような物理ノベルティが、デジタル疲労の反動も重なり、再評価されています。顧客がマッチを持ち歩き、火を点ける瞬間にブランドを思い出す—これが「思い出される」マーケティングの本質です。AI時代では、QRコード付きマッチが登場し、スキャンでSNS共有や店舗サイトへ誘導。顧客の投稿がAIアルゴリズムで拡散され、「近くのユニーク店舗」として推薦されます。
想像してみてください。明治の祝賀会で配られたマッチが、現代のAIチャットボットで「おすすめのカフェ」として蘇る。エコ素材のマッチをイベントで配布し、顧客がInstagramに投稿—AIがそれを拾い、パーソナライズ推薦で集客。2025年のデータでは、こうしたハイブリッド手法が売上を向上させる事例も。 マッチは低コストでサステナブル、Z世代にアピール。X(旧Twitter)では、ステッカーキャンペーンが成功したように、マッチも「#RetroMarketing」でバズる可能性大です。
このストーリーは、明治のイノベーションがAIで現代的に輝く好例です。そして、最近のインターネットマーケティングで叫ばれるエンティティの重要性(コンテキストを理解し、ブランドを実体として確立する)は、まさに広告マッチの中にあります。広告マッチは、来店したお客様一人一人に手渡す物理的なアイテムで、店舗の実在を証明し、顧客の記憶にブランドのエンティティを刻み込むのです。明治時代から続くこのマーケティング手法は、AI時代にこそ、エンティティの真髄を示すツールとして復活するでしょう。小規模店舗は、マッチを活用してローカルコミュニティを強化し、AIの波に乗る。広告マッチの意外な復活劇が、ビジネスのヒントになるはずです。




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